リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

 それは数年前の話──グエンは泥酔していてベリルはそのとき、浴場からの帰りだった。

 少し肌寒い夜で、ベリルは新しく購入したマントにくるまって宿に帰る途中だったのだ。

「男だ」と言い張るベリルに泥酔したグエンは聞く耳を持たず、彼は仕方なくグエンを殴り倒した。

 その恥ずかしさも相まって、グエンは未だに根に持っている。

 挨拶を終え、去ろうとしたベリルに彼は口角をつり上げて発した。

「知ってるか? この街にはそれは美しい魔女がいるんだそうだ」

「!」

 得意げに語るグエンの言葉とは裏腹に、酒場の空気が少し張り詰めたようにベリルは感じた。

「『はじまりの丘』に棲み着いてるらしい」

「ほう……」

 街に来る途中に通りかかった丘の事か。

「旅人を快く招き入れるらしいぞ」

「……」

 グエンの言葉に、含んだ物言いが見て取れてベリルは眉をひそめた。