リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

 危険なモンスターがいつ襲ってくるかも解らないのだ。

 よほど腕に自信がなければ務まらない。

 もしくは、逃げ足の早いシーフ(盗賊)か、逃げる術を持つソーサラー(魔法使い)くらいだろう。

 だが、青年の姿はそのどれとも違っている。

 それは腰にある剣がそう物語っていた。

 この街、フェムトは冒険者や旅団が多く、行き交う中継点になっている。

「渡り戦士ごっこなら他でやれ」

「チッ、エセかよ」

 酔っぱらいの2人は吐きかけるように言い捨て、青年を睨み付けた。

 青年は意に介さず、大人しくなった2人から視線を外し錫(すず)製のカップを傾ける。

 何の反応も示さない青年に馬面の男はムッとした。

「おい、なんとか言えよ」

「よせよ」

 巻き毛の男は酔いが覚めてきたのか、仲間を制止する。

 この落ち着き払った青年の強さが底知れないと感じたからだ。

 青年は立ち上がり、イスに掛けていた灰色のマントを羽織り店を出ようとした。