リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

「村のためだ」

 そう言った村人の言葉に、ベリルは新たな罪の予感を覚えた。

 馬に荷物を乗せて飛び乗る。

 誰にも何も言わず、ゆっくりと村から離れた。

 振り返り、遠くに見える集落の灯りに目を細め小さくつぶやく。

「……さよなら」

 馬の腹を蹴って駆けた。

 逃げるように、何かに追われるように、どこかに向かうように──

 暗闇の中、月明かりを頼りに力の限り馬を走らせる。

 2度と戻る事はないと誓いつつ、心はまだ故郷に戻りたいとその足を止めようとする。

「だめだ。もう戻れない」

 心の中で呪文のようにつぶやき続けた。