リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

 ざわざわとベリルの髪が揺れる。

 エメラルドの瞳でその男──全能の神ゼウスを睨み付けた。

 そして、一陣の風がベリルを縛り付けていたイバラを切り裂いた。

「! 風を孕(はら)みし者だと? ぬしは何者だ」

 さすがの彼も、その力に目を見開く。

「風を孕む者は空を統べる者に他ならない。大気を支配する者は神以外、天駆けるドラゴンだ。人であるぬしが何故(なにゆえ)にドラゴンの力を!?」

「知った事か」

 吐き捨てるようにつぶやいた。

「剣を返してもらうぞ。そいつは“嫉妬深くてね”」

 声を低くして発し手を差し出す。

「!?」

 男はそれにビクリと体を強ばらせ、剣を地面に落とした。

 ベリルはそれをゆっくりと拾い上げて腰に提(さ)げる。

 そうして、何も言えなくなった男を残し馬を走らせた。