リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

「酒の酌くらいでさらわれたのではたまったものではない」

「わしにとっては重大な事だ」

「ふざけるな」

 思い切り嫌な顔を向けるベリルをよそに、その男は腰に手を回す。

「……」

 これはまずい。

 このまま連れ去られてしまう。

 なんだって酒の酌をするためだけに所望されなければならんのだ、と怒りが湧く。

 そう、この男はベリルを酒の酌をさせるためだけに連れ去ろうとしているのだ。

 そんな攻防戦を、2人は長年にわたって繰り広げている。

「お前の自慢の剣はここだ。欲しがらなければ攻撃してこない」

 手をイバラで縛られた時に落としてしまった。

 嬉しそうに鞘に収まった剣を持ち、片手はベリルの腰に回している。

「いい加減にしろ。ゼウス」

「お……?」

 名前を呼ばれて目を合わせる。

 危険を感じて数歩、後ずさった。