リンドブルムの剣~魔女が涙を流す夜~

 水竜の態度が変わった。

[人間の男。名はなんという]

「……ベリル」

 鞘に収めた剣をルビーの瞳が見つめた。

 水竜が次に口にする言葉をベリルは知っている。

[その剣……我に渡せ]

「それは出来ない」

 水竜は大きく吠えてベリルを威圧した。

 しかし、彼はそよ風にでも触れているようにしれっとしたものだ。

「力を欲するか」

[欲しない者などいない]

「欲するが故に冥府に落ち、そうでない者が不死になったとしてもか」

[!?]

 それを聞いた水竜の目が細くしぼられ、いぶかしげにベリルを見下ろす。

「欲望は時に身を滅ぼす。それが解らない貴殿ではなかろう」

[人間の男風情が我に意見するのか]

 怒りに目を見開く。

 それを見たベリルは、深い溜息を吐き出し剣を抜いた。

「ならば持っていけ」