「……」

 暴れる馬を制御し、ベリルはその怪物を静かに見上げる。

[人間よ、この河を渡りたいか]

 低く、くぐもった声でそいつは発した。

 翡翠のようなウロコと爬虫類のような面持ち。

大きなヒレが七色に太陽を照らし、牙はゾウのソレよりも巨大。

 その瞳はルビーのように紅く、口はひと噛みでベリルを飲み込んでしまいそうだ。

「渡らせてくれるというのか」

 彼がそう言うと、その水竜はニヤリと笑ったように見えた。

[その馬で我の腹を満たせば渡らせてやろう]

「……」

 ああ、やはりそう来たか。

 ベリルは目を据わらせて呆れる。

 こういう者は大抵、人をからかって遊ぶクセがある。

 度が過ぎるイタズラで人間が死ぬ事もしばしばだ。