「解ったのなら去れ」

「……諦めないから」

 つぶやいて、エオスは霧のように消えていく。

「……」

 彼女がここまで執拗に迫る理由を、ベリルは知っている。

 愛する男たちの死に耐えかねたエオスは、全能の神ゼウスに1人の男の不死を懇願した。

 その願いが聞き届けられた事に歓喜したのもつかの間、愛する男は年老いていく。

 彼女は忘れていた──

 不死と共に不老を願う事を……老いさらばえ動けなくなっても、愛する人は冥府に旅立つ事もなく生き続けている。

 そんな姿に耐えられるハズもなく。

 彼女は静かに、その部屋の扉を閉じるのだった。

 今でもその人間は、エオスの神殿に閉じこめられているのだろう。

 時折、訪れる愛する女神にそのしわだらけの顔で笑いかけ愛を語るのだろうか。