「まだあるけど……」

「私は食べなくてもいいんだよ」

 その言葉に目を見開く。

 そして視線を外し、切れ切れに発した。

「ま、町で……言ってた英雄って……」

「私の事だろう」

 騒ぐのは大抵、女たちだ。

 彼の姿を見た女性は、甲高い声で井戸端会議を始める。

 腕自慢の男は彼に闘いを挑むが、勝てるハズもない。

「……」

 エリスは改めてベリルを見つめた。

 その瞳は複雑な表情をしている。

 グエンを見たあとなのだ、当然の反応だろう。

 ベリルは小さく笑った。

 彼こそ、英雄と呼ばれても不思議ではない風貌をしている。

 私は彼の“取り巻き”くらいにしか思われないだろうな。

 と考えたとき、思わず嫌な記憶が甦った。

「どうしたの?」

「いや……なんでもない」

 エリスは、げんなりしたベリルに首をかしげる。