ゴハンの上にマネヨーズ

「それくらいの覚悟が必要やということや。今の若い奴は、仕事が面白くないとかしんどいとか言って、簡単に辞めてまうけどな」

「でも製油会社の社員っていうだけが、僕の存在価値というのは、何かつまらないですね」

「職業や地位だけじゃなくて、家族とか友達とか、サークルとか町内会とか、恋人とかっていう一定のコミュニティを持ってて、その中で、自分の存在意義が確保されてれば、それでもええで。そっちの方がいいかもな。でも、そういうコミュニティを得るほうが難しかったりするからな。それに職業や地位で、人の存在価値を決め付けてしまうこの社会に、全く影響されずに生きていくのは難しいからな」

「今の自分に、僕だったら製油会社の社員である自分に納得できない方が辛くないですか」

「そうかもな。でも、俺はもうそんな気持ち忘れてもうたな。でも、ただ辞めたいから辞める。とりあえず自分を白紙に戻す、というのはちょっとな。自分も自分を納得出来へん、他の誰も自分を認めてくれへん状況っていうのは想像以上に辛い、と俺は思うけどな」

「そこまで考えなくちゃいけないんですかね」

「さあな。結局のところ、俺にもよく分からん。ま、簡単には辞めるなよ、と言うだけのことや」

「僕のことじゃないですから」

「そうか。そろそろ帰ろか。飲みに行くか」

「今日はいいです」

「ほな、後よろしくな」

そう言うと、ウエヤマさんは、パソコンの電源を落として帰っていった。

結局、ウエヤマさんは会社を辞めようと思ったことがあるのだろうか。

僕は、窓の外を見ながらぼんやりと思った。

 真下を見ると、サラリーマンの酔っ払いのグループが、何やら楽しそうに叫びながら、歩いていた。