「父上の意思ならば、ワラワに謝る必要などあるまい」

龍王の輪廻のチャンスを奪った俺を責める気はないらしい。

「それに、そなたの郁乃や吟も、同じ事をしたのであろう。ワラワだけが特別な感情を抱いていいわけがなかろう」

「そうだな」

龍姫は俺よりも大人で、落ち着きもある。

感情の抑揚を出来ているといっていい。

「千鶴、お前はイヴァンに止めを刺して欲しい」

俺は千鶴に向き直り、願いを告げる。

ある程度の話は千鶴も聞いていただろうから、説明しなくてもいいだろう。

感動の再開の時間を刃との戦いに取られてしまったため、さっさと本題へと移行したわけだ。

「そんな、私、出来ないよ」

誰にでも戸惑いはあるだろう。

よほどの自信家でない場合、世界の命運をかけた事に対して弱気になる。

千鶴は、どっちかといえば真逆の性格だ。

怖がるのも当然。

「無理を言ってるのは確かだな」

しかし、千鶴の助けがなければ、ここにいる人達は消えてしまう。

「誰だって嫌な事だ」

千鶴の頭を撫でる。

「逃げてもいい」

しかし、俺だけでも時間稼ぎはしなくてはならない。

「兄さんは、どうするの?」

「そうだな、俺は死んでるから無茶も効く」

「でも、そうしたら、兄さんは」

「もとより、四十八時間しかもたない精神だ。だったら、やるべき事はやっておかなくちゃ、俺に力を貸してくれた人達のやった事が無駄になっちまうからな」

俺は千鶴の頭から手を離した。