どうやら、女性のようである。

髪を茶色に染め、後ろで束ねている。

背は百六十程度だろうか。

釣り目できつい顔が冬狐にそっくりであった。

「死体が、動いた?」

すぐにでも逃げ出そうという姿勢を取る。

「まあ、待とうぜ」

俺はその場に座って、両手を挙げた。

「あんたには何もしないし、する気もない。ただ一つだけお願いがある」

「あなた、話せるの?」

「そこらへんのゾンビ映画と一緒にしてもらっちゃ困る。こっちには意思も、感情もある」

「ふうん、面白いわね」

女は警戒はしているが、逃げる姿勢は解いた。

「で、お願いって何かしら?」

「服を持ってきてくれないか?」

「君の事を信じろというの?」

「ここで、信じてくれなきゃ困る」

少し考える素振りを見せた。

「俺には、守らなくちゃならない奴等がいる。ここで捕まるわけにもいかない」

「なるほど、ね。で、服を持ってきた見返りは?」

「そうだな、色男でも紹介してやるよ」

女が男に困っていなければ、意味のない交渉だ。

「それ、本当?」

「もちろんだ」

ただし、何歳かは知らないけどな。

「しょうがない、少し待ってなさい」

俺は座ったままで女を待つ事となった。