龍王の爺さんは詠唱をし始める。

「私は、あなたに何かをやらせてばかりの親でしょう」

郁乃母さんは伏目勝ちに言う。

「それを恨む気はないよ。それ以上に郁乃母さんは色々と救ってくれた。小さい頃から、ずっとさ」

「丞」

「それに、郁乃母さんがコアを取ってくれなかったら、俺はもっと早くにここにいただろうよ」

「でも、もっと平和な世界を送れてたかもしれないでしょう」

「そりゃ素敵な世界だけど、俺にとって平和な世界であればあるほど、知り合うはずの人達と知り合えなかっただろうな。だから、今のままでいい」

「丞、本当にあの人に似たでしょう」

「似たくはねえけどな」

苦しい思いや痛い思いはしてきたけれど、だからこそ得る物も大きい。

俺は、それを幸せと思う。

郁乃母さんは光の粒となり、俺の中に入っていく。

「私には思い出がない」

「ああ」

「でも、短い間でそんな事がどうでもいいくらいの気持ちになった」

「たいした事はしてないけどな」

「かもしれない、でも、私にはそうじゃない」

吟が笑顔を見せてくれる。

「そうか」

「私は、お前が好きだ」

「俺もだ」

あの時とは、逆になったようだ。

だが、俺の気持ちは変わっていない。

吟も光の粒となり、俺の中へと入ってくる。

「では、頼んだぞ」

「今度はしくじらねえ」

龍王が光の粒となると同時に、俺は光に包まれた。