「すまぬな、ライン、いや、神とでも呼ぶべきか」

龍姫は自室にて茶を啜りながら、ラインを見て目を細める。

「私はライン、それ以上でも以下でもない」

ライン=モールもまた茶を啜る。

「丞と吟の様子はどうじゃった?」

「幽体になった事以外、変わりはない」

「そうか」

葉桜丞が死んだにも関わらず、龍姫は微笑む。

「そなたしか、頼める御仁もおらぬからのう」

「私は私の興味本位で意志を植えつけただけの話だ。君から頼まれずとも、行動を起こしてただろう」

「ほんに、人間を好きな神じゃのう」

龍姫は紅玉が近所で買ってきたせんべえを齧った。

「肉体との鎖が切れた彼が人界に立つ事はないがね」

「じゃが、彼奴の思い通りになって、そなたの存在が危ぶまれると思うが?」

「それも流れだ」

「身を任せるか」

「本来、大いなる意志は何もしない」

「現世と常世を行き来しておるし、他に力を与えておるがな」

「私は、一部であって完全ではない」

「じゃが、彼奴は、完全になろうとしておる、か」

「その先にあるものは、概念の集まりでしかない。それを求める事の意味を把握していれば、いいがね」

「注意してやらんのか?」

「彼はそれを求めていない。自分で知りたいようだね」

「悪い奴じゃ」

「今の場合、何をもって『悪』とするのかが、問題だがね」

二人は同時に茶を啜った。