「はあ」

仕事が終わっても、クルトの様子は変わらない。

いつかは薄れ行く記憶だとしても、今すぐに変わる事は不可能であった。

「どうしたんだ、オラ」

自分の気持ちに戸惑いながらも、彼女は足を進める。

借家に帰り、一人の時を過ごす。

借家も、葉桜丞が面倒を見てくれたものであった。

クルトには基礎知識が皆無であったために、世話になるしかなかったのだ。

イヴァンの下で働いていたよりも、居心地は良い。

しかし、葉桜丞達と共にいた時よりは、寂しさを感じた。

自分が望んでいた世界だというのに、満足を得られない。

一人食事をとり、一人床につく。

先輩と共に出かける事もある。

でも、自分を出せない。

一日が終わり、そして、始まる。

そんな毎日の繰り返しだった。

確実に、何かが、磨り減っている。

何かは、分からぬままだった。

ある日、働いた帰りに先輩に飲みの誘われる。

長々と先輩は愚痴を言い、クルトは聞き流すだけである。

クルトは社会に出た事によって、面倒ごとだと理解した事の対応を習得した。

本当は、お酒もあまり好きではなく、飲むフリだけを上手く見せる。

ろくでもない知識だと、クルトは思っていた。

何も楽しい事なんてない。

それは仕事に対してではなく、自分の生き方に対して思うことだ。

代わり映えのない事に、疲弊していたのかもしれない。

本当に、これで良かったのかと、思う。