「靜丞さん」

冬狐はスチール缶を片手で握りつぶす。

「何じゃ?」

「これからどうするの?」

さほど興味はないものの、冬狐は靜丞に尋ねた。

「余生を花壇でも作って過ごそうかのう」

靜丞は燕に言われたとおりの生活も悪くないと踏んでいた。

「あなたの大事な葉桜千鶴の事はどうするのよ?」

「ワシが守らんでも、千鶴は大丈夫じゃ」

「何か根拠でもあるの?」

「近親相姦が大好物の小僧が何とかするわい」

「葉桜、丞ね」

「冬狐ちゃんも、そう思っておるんではないか?」

「死人よ」

「あやつは約束を果たしておらん。守ると言ったからには責任を取らなければならんよ」

「妖魔でも出来る事と出来ない事があるわ。もし、肉体を蘇らせる能力があったところで、それは『葉桜丞』という個体ではない。ただの屍に過ぎない」

「小僧は更に上の行動を取る。自分以外の記憶を奪い、時間を元に戻したようにのう」

「都合のいい偶然は長くは続かない。だからこそ、葉桜丞は死んだ」

「果たして偶然といえるか?」

「どういう事?」

「偶然の連続は必然といえる。小僧の都合の良い偶然はもはや都合の良い必然」

「蘇る事も必然だとでも?」

「そこまでは分からぬな」

「信じるに値しない話ね。何の確証も根拠もない」

「そうじゃな」

「でも」

潮のニオイを乗せた風が冬狐の髪を撫でる。

「それを望んでいるのは、靜丞さんだけではないのかもしれないわね」