「今度は、私が救うわ」

「小僧をか?」

「死人を?それは無理ね」

「お前は優しい子じゃからのう」

靜丞は笑顔になると冬狐の頭を撫でた。

「私の頭を触った代償は高いわよ」

冬狐が攻撃する事はなかった。

下心のない行動に対しては、攻撃を行わない。

靜丞の行動する意味はわかっている。

その奥に潜んだ気持ちも理解していたとしても、感応する事はない。

壊れた物を作り上げる事は出来ないからだ。

組み立てても、ほんの少し回復する程度の物で、完全にはならない。

生の中で絶望があったとしても、立ち上がらなければ生きてはいけない。

それは、父親のところで学んだ。

誰にとって何が正しいのか。

誰にとって何が間違いなのか。

冬狐にとってはどうでもいい事であった。

自分の思った事を貫くだけである。

家族に害を成す事が全ての悪。

それだけは確かなのである。

ならば、何故、囚われた妹を助けなかったのか。

自分の力では不可能だという事を理解していたからだ。

理解とは、時に絶望を与える。

だが、回復した少しの心のどこかで、信じる物もある。

それが、『葉桜丞』の存在である。

冬狐が彼に対して抱く感情も理解はしていた。

一時は、妹を苦しませる存在として疎ましく、憎くもあった。

しかし、妹に苦しみを与えると同時に、幸福を与えた。

だからこそ、家族同様に信じるにたる存在となったのだ。