自動販売機で購入したホット缶コーヒーの熱さを手に覚えながら、笹原冬狐は空を眺めていた。

変わりのない蒼い海に、変則型の白い魚が泳いでいる。

白いコートを風に靡かせながらも、車にもたれかかっている。

自分は無関係だと言わんばかりに、微動だにしない。

街から少し離れた港で倉庫が並んでいた。

人気はない。

そう、ここには人はいない。

冬狐は妖魔であり、アスファルトの上に倒れている血だらけの妖魔も人間ではない。

先ほど、冬狐は倒れていた男の妖魔の襲撃を受けた。

しかし、勝敗はあっ気なかった。

力を増幅させられ続けて自滅してしまったのだ。

冬狐の研究合間の休憩時間を奪い、怒りを買ったのだから妖魔も運がなかったといってもいい。

感情の壊れた冬狐は守るべき者以外には非情になる。

男の妖魔が何者かなどどうでも良かった。

イヴァンとの戦いや、秋野とジャックとの戦いには興味がなかったからだ。

ただし、妹の笹原美咲に危害が加わるというのなら話は別である。

冬狐の家族に対しての感情が働いていないという事は、まだその時ではない。

「ふう」

風に靡く片目を隠した茶色に染まった前髪。

「葉桜一族に関わる者は死ぬ、か」

そして、冬狐も深く葉桜一族に関わっている。

それ以上に、血を受け継いでいるのだから、当事者といってもいい。

「冬狐ちゃんじゃないかい」

背後に立っていたのは、葉桜靜丞である。

「靜丞さん、何故、ここに?」

「この近くに買い物があったんでのう」