「丞ちゃん、もし準備するなら今しかないわよ」

「そうだな」

俺は鉄球に意思を込めようとする。

しかし、何も起こらない。

何度か試して見るが、何も起こらない。

「そうか」

母さんは妖魔。

俺は半妖魔。

母さんに出来て、俺に出来ない事。

「術か」

俺は龍王から与えられた術式を頭の中で探ってみる。

「あった」

『人心転移術』。

高等魔術の一つであり、禁忌の一つである。

他の物に自分の思念体を定着させる事が出来る。

契約妖魔とは違った方法で、他人に自分を共存させる方法だ。

体を出たり入ったり簡単に出来ないために、契約妖魔よりも自由度は高くないだろう。

すでに失われた術式であり、知っているものは少ない。

郁乃母さんは思念体の半分しか定着させる事が出来なかったために、途切れ途切れでしか現れなかった。

何故母さんが、この術式を知っていたのか。

誰かから教わったのか。

どこかで知ることとなったのか。

それはさておき、俺には出来ない事が発生してしまった。

周囲にいる者に人心転移術を使える者はいない。

教えたところで成功する見込みはゼロである。

生きている妖魔の中に、一人だけいるのは確かだ。

しかし、今、この瘴気の中を呼ぶのは危険。