「悲しさ、かな」

「どういう事だ?」

「彼は一体どこまで、一人でいるんだろうと思って」

「美咲」

「好きだとか嫌いだとかそんなんじゃない。孤独の辛さを知らない事が強さだなんておかしいし、決して強くなんかない。そこが悲しいんだ」

「ああ」

「彼は願いを叶えるというけれど、それも一人と同じ。利害を同じくしているだけだよ」

「ああ」

「他人といる事に煩わしい事だってあるかもしれない。でも、それだけじゃないと思う。他人を少し認める事で自分の世界は広がるし、間違えに気づく事だって出来る」

ずっと一人でいれば何が正解なんかなんて分からない。

美咲のいう他人とは、自分の言う事を聞くだけの相手ではない。

「誰かが言ってあげなくちゃならないのに、信用しないかもしれない。それも、悲しい」

「ああ」

「でも、私には彼に何も言う権利なんかない。だって、私は彼を裏切ったもの」

美咲は、イヴァンと過去に付き合っていた。

もし、美咲の事を信用していなかったからといって、裏切りは真実。

「その原因は俺にもある」

「あなたの誘いが原因のひとつだとしても、私は心が弱かったんだ。それは、今でも変わらないと思う」

「そうか」

美咲は、裏切りの代償として死の病を受けた。

最後には笑顔で逝ったものの、一度苦しみの中に身を置いたんだ。

自分の中の傷である。

しかし、迷って打ち損ねるなんて事はないと思いたい。

俺は、美咲を信じたいんだ。