一陣の風が吹く。

俺はあたりを見回した。

何も起こった気配がない。

しかし、何かが起こったような気がしたのだ。

「気のせいか」

「王子様?」

「なんでもない。ロベリアが気にする必要はないさ」

今、何が起こってもおかしくはない状況である。

だからこそ、どこかで起こった何かに構っている暇はない。

俺には目の前にある物を片付けていくしかないのだ。

「姉さんを悩ませてるんじゃないわよ」

ロベリアの隣にいた俺をジャスミンが押しのける。

「悪いな」

「あんたの謝罪なんてアテにならないの。信じるに値しないわ」

「すまないな」

隣にいなければ気に入らないという程に、ロベリアの腕に組み付いた。

敵はまだいるのか。

分らない。

邪魔をされる暇もないというのにな。

見覚えのある影を見た。

「クルトか」

一時期、共にいた仲間のクルトがこちらに歩いてくる。

「よ」

「何が『よ』だ!」

俺の足にローキックを食らわせる。

しかし、以前のような痛みは走らない。

「丞」

クルトの傍には美咲も立っている。

「久しぶり、だな」

「本当に、丞、なんだね?」