秋野は再び笑う。

「でもね、私達の間に主張のやり取りは必要ないわ。あなたの主張は極端だし、私も聞く耳をもてないの。それに、あなたは私達の話を聞こうとしない。これほど、無意味なやり取りはないわ」

ジャックは無言のままで、引き金を引いた。

ジャックに時間を消費する気はない。

しかし、弾丸の軌道上に秋野の姿はなかった。

「闘争という欲望は人を変えるのね」

ジャックの背後に立つ秋野。

妖魔という生き物は、人間よりも身体能力が高い。

しかし、いくら速くても瞬間移動が出来るほどの身体能力はない。

「ルール」

「遅い」

背後からジャックを貫く手刀。

ジャックの瞳が閉じようとしたところで、秋野の腕をつかむ。

「『触れると崩壊する』」

そう、独り言のように口ずさむ。

心臓が止まろうとしていた。

それでも、意地を通す。

それは滅ぼすという事を決めた時から変わらなかった。

秋野の腕は粉雪のように消えていく。

「あなたは、全てを破壊するという事を選ばず、私を滅ぼす事を選んだのね」

笑みを浮かべる。

時間を戻す事も、瞬間移動を使う事も、秋野はしなかった。

いや、出来なかったと言ったほうが正しい。

秋野には、魔力が残っていなかった。

冷却から脱出するための時間を逆行する能力の行使。

ジャックに気づかれぬように詠唱破棄の行使。

瞬間移動の行使。

それは、多大な魔力の消費を意味していた。

「ごめんね」

片腕で自分の腹をさすりながら、世界に顔を見せる事のないわが子に謝る。

先ほどまで戦っていた二人は世界から消えた。

草原は風に揺れる。

何事もなかったかのように。