《短編》猫とチョコ

『…大丈夫?』


そう声を掛け、みぃはキョロキョロと辺りを見回した。


そして奥にある人のほとんど居ない階段を指差した。



『あそこまで歩ける?
とりあえず、休んだ方が良いから。』


「あっ、うん…。」


みぃが心配してくれるなんて、思ってもみなくて。


驚いたけど、その後にあたしも続いた。




階段に腰を下ろすと、やっと熱気から開放されて安堵のため息が出た。


だけど急に虚しさを覚えてしまう。


遠くでは笑い声ばかりが響いて、それがどうしようもなく耳に入ってくる。



『俺のお茶やるよ。』


そう言ってみぃは、持っていたお茶のペットボトルを差し出した。


だけど受け取らないままあたしは、顔を俯かせた。



「…みぃ、女の子待ってるんでしょ?
あたしのことは良いから、行ってあげなよ。」



みぃはあたしとは違って、待っててくれる人が居るんだから。


ムゲになんか、しないであげて欲しかった。



『…けど、ヒナ調子悪そうなのに放っては行けないって。』


「―――ッ!」


みぃの優しさが、今は邪魔で仕方がない。


いつもしている大人で冷静な態度なんて、今は取れるほどの余裕はないから。


あたしの言葉をまるで聞かず、みぃは隣に腰を下ろした。


いつもみたいに、あたしの右隣。



『それにヒナだって一応女の子だし、変なのとかに絡まれたら大変じゃん!
心配しなくても、途中まで送っていくから!』


まるでそれが当たり前のように、みぃは言うけど。


きっと、いつもこんな風なんだろう。


そう思うと、無性に腹が立った。