起きたときには、昼を過ぎた時間だった。


いつの間にか寝ていたのだろうけど。


一晩経っても彼氏からの連絡はなくて。


“やっぱり現実だったんだ”って。


昨日よりは冷静になった頭で考えた。



代わりに来ていたのは、待ち合わせ時間を確認するサクラからのメール。


行くほどの気力なんて、持ち合わせてはいなかったけど。


ドタキャン出来るほどあたしは、酷い人間じゃないし。


それにしても、ヤバイ顔。


鏡を見つめながら、一晩泣き腫らした自分の顔を確認した。


二人で浴衣を着る約束だっけ。


数日前から飾るように出していたそれを見つめ、無意識のうちにため息が零れた。


一体あたしは、何のために、誰のためにこれを着れば良いんだろう。


行きたくなんてなかったけど。


行けるわけなんてなかったけど。


それでもあたしは時間の許す限り目を冷やし、コンシーラーでくまを隠した。


夕方だし、みんなにはバレないだろう。



重い足取りで浴衣と荷物を持ち、近所にあるおばあちゃんの家に向かう。


着付けてくれながらおばあちゃんは、何度もあたしに“可愛い”と言ってくれた。


まるで魔法の言葉のように、少しだけ元気になれたけど。


握り締めた携帯を、離すことは未だに出来ない。


“嘘だよ”って、メールが来るのを待ってたんだ。


なのに家を出る時間になっても、そんなものが来ることはなかった。


ただ、現実を受け止め切れなかったんだ。



電車の中には、たくさんのあたしと同じような浴衣の子。


カップルの姿が、今は見てられないほど目にばかりつく。


立っていると無意識のうちに涙が溢れてきそうで、巾着の紐をしっかりと握り締めた。