「‥す‥‥‥い‥‥‥」

父さんの声も途切れ途切れ聞こえては来るが、低くて落ち着いた父さんの声は二階へは届かない。


「最低っ!もう出ていって!顔も見たくないわ!」


代わりにどんどんと大きくなっていく母さんの高い声が聞こえてくる。母さんの声は震えていた。



すると兄ちゃんは立ち上がり、こちらを向いた。


「亮太、舞、お前らはここにいろ」


兄ちゃんはそう言うと俺達を残してドアを閉めた。


"パタン"


ドアを閉める音を境に声は聞こえなくなった。


「りょおた、お兄たんどこ行ったの?」


まだ小さかった舞にはこの緊迫した状況が分からなかったのだろう。


兄ちゃんの部屋に置いてあったサッカーボールを転がしながら遊んでいた舞が、笑顔で聞いてきた。


「大丈夫だよ、舞は僕が守ってあげる」


俺は舞を抱き締めてそう言った。