風が止んだ。
女は目線を千年樹の幹に定める。
夕日から月光へ。
反射の対象をかけて、徐々に色を染める白桜。
すると、風が吹く前にはなかった人影が、千年樹の幹から延びていた。
足、服、髪……どんどんと姿がはっきりとしてくるそれ。
女はさらに花を掻き分けて、幹に近づいた。

「……やはり…ここにいらしたんですね」
女の言葉はどこか憂いを帯びいていた。



千年樹に呼び掛けた名前と違う名前を告げる。
女の顔は、千年樹に呼び掛けた時より引き締まっていた。

「……あぁ。さっき、変わった」

紅蘭は無表情で答えた。