余章;Chanteurse


シュセル地方郊外。
今、村を守る“白桜の千年樹”は咲き誇っていた。
辺りはもうすぐ夕刻を刻む。
千年樹の伸びた影が、一つの山百合に当たった。
どこからともなく甘い香の匂いが漂ってくる。
束の間、辺りに眩い光が起きた。

「アオギリ様!!」

千年樹を囲うようにして生えた、紅蓮の月下美人を掻き分けて、白髪…というより、銀に近い髪色をした女が突然現れた。
女は千年樹に向かって呼び掛ける。
すると、一輪の風が吹き、女は少し目を細めた。
頭上では、先程まで茜色をしていた空に、一番星が煌めいていた。
もうすぐ月が昇る。