ほぼ同時に、先輩もあたしに1歩近づく。
そっと手が差し出された。
何だか…おとぎ話みたい。
もちろん、朔弥が悪者だって言ってるわけじゃない。
すごく自然に手を伸ばして、先輩の手に触れたの。
そのままあたしの手を握ると、先輩はドアに向けてUターンした。
「あのっ…先輩?」
「何?」
「朔弥がまだ…」
「いいんだ」
「これでいいんだよ」…先輩は2回繰り返した。
あたしは何が“いい”のか理解できなくて、何も言わなかった朔弥が少し心配にもなったけど…
この手を離したくもなくて。
きっとあたしの知らないところで、2人の間にいろんな言葉が交わされたんだ。
そう納得した。

