「冗談でもないけど」
ピタリ、と。
あたしの動きもこの教室の空気の流れも、時間さえも止まったような感じがした。
…やめてよ。
そんなあたしの思いもむなしく、一番聞きたくなかった言葉を朔弥は言った。
だって、
「稚早が好きだ」
…応えられないのに。
目を合わせられなくて俯いた。
こんな時でも思い浮かぶのは先輩。
先輩が知ったらどうするだろう。
また…曖昧になっちゃうのかな。
――そんなのイヤ。
返さなきゃ、ちゃんと。
手をギュッと握りしめて、再び顔を上げた。
そして、あたしは朔弥の後ろ――ドアのところに人がいたことに気づく。

