――それなのに。
「お嬢様」
私が口を開くより、榊が早かった。
いいえ。
まるで見計らったかのようだったわ。
まっすぐに、視線が交わる。
少しの間をおいて、榊は言った。
「お誕生日おめでとうございます。……そして、どうぞお幸せになってください」
――榊は知っていた。
私の気持ちを。
そして、私も。
榊の想いを知っていた。
お互いに、全てわかっているのに。
それを言葉にすることはできない。
…むしろ榊は自らの意思で、言葉にはしなかった。
涙が出てくる。
…何よ、何よ。
どうして今なの。
『誕生日おめでとうございます』
『お幸せに』
そんなこと言われたら…
私も、言えなくなっちゃうじゃない。
「好き」って。

