夜獣-Stairway to the clown-

「悪いけど、全てが遅いんだよ」

桜子ちゃんが何といおうとも何もかもが遅かった。

あの時救えていたなら話もかわっていたけど、人生にIfはない。

Ifなんてものは考えないほうがいいし、やり直しなんていうのも単なる逃げでしかない。

今の状況が現実だ。

「だったら、奪おうってくらいのこと見せてよ!」

奪うなんてとんでもなかった。

今になってどうしてこんなことを言い始めたのか。

どうしてここまで自分のことのように言ってくれるのか。

「桜子ちゃんは僕のためになんでそこまで考えてくれるの?」

引っかかってたことは他にもあるが、そこまでムキになることじゃない。

しかも、夕子のことも混じってるがほとんどが僕に対しての言動である。

「そんなの知らないっつうの!」

もっていた鞄で頭に一撃をくらいそのまま走っていった。

少し痛む頭を抑えながら、桜子ちゃんの背中を見送った。

「行っちゃったか」

行ったといってもすでに家の近くだったので、後2分歩けば家につく。

桜子ちゃんは僕に無茶なことを望んでいた。

それに答えることは多分ない。

また気にし始めれば、いつまでもそれに縛り続けられる。

身動きが出来ない、それだけは嫌だった。

今の考えを振り払い、後のことに切り替え家へと帰っていく。

家の中に入ると、アキラの靴があった。

今日はどこにも寄らずに家に帰ってきたらしい。

リビングを覗きみるとそこには誰もいない。

自室にいるのかもしれない。

特に用なくアキラの部屋に入ろうなんて気は起こらない。

入ろうとしてもすぐに追い出されることになるだろう。

すぐにでも自分の部屋でくつろいだほうが有意義に過ごせるだろう。

自室に戻ると、変わった様子はない。

今は17時であり、時間まで後6時間程度ある。