夜獣-Stairway to the clown-

「生きている内に愛別離苦は来ます」

愛することが出来るほどの思い出深い人生を送れば満足いくかもしれない。

話しているうちに校門の前までたどり着く。

「ここでいいです」

「そうか」

「教室まで一緒に帰れば都合が悪くなります」

それはさぼって二人でどこに行ってたのかと問われる。

「勉強がんばれよ」

「神崎さんも頑張りましょう」

「僕はいいの。本気になればすぐに追いつくよ」

「それなら安心ですね。それではまた」

「おう」

駆けていく雪坂の後姿を見送りながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。

帰り道、一人になると物凄く寂しい。

さっきまで横にいた雪坂がとても大きく感じられる。

今更呼び戻すなんてことをしたら、弓で打ち抜かれるかもしれない。

夕子に対しての気持ちが薄らいでいるわけでもないのだけど、雪坂に対しての気持ちも出てきたという感じだ。

複雑な感情を抱きつつも歩いていると、いつのまにか家の前についていた。

家に入る前に一つしとかなければならない。

我が家をスルーし、隣の家の前まで歩いていく。

今なら夕子もいないし、目的の人に会えないことはない。

夕子がいた場合、桜子ちゃんを気遣って会うことはままならない。

チャイムを押してみるが出てくる気配はない。

(学校に行けるまで回復したのかな)

もう一度押してみると、中で階段から降りてくる足音が聞こえてくる。

僕と判っていても、出てくるのに戸惑っていたのかもしれない。

「はい」

ゆっくりと扉が開き、間から桜子ちゃんが顔を覗かせている。

「元気?」

どんな言葉をかけていいのかわからないので、調子でも聞いておく。

「ううん、全然」

「そうか」

そうかもしれない。

あんな目にあった後じゃ、男性不信になっても不思議じゃないんだ。

「何?」

死んだ魚のような目をして元気がなく、節目がちでこちらを見ている。

会いに来るには用件が必要だなのか。