夜獣-Stairway to the clown-

「終わった」

包帯を巻くと、救急箱の蓋を閉める。

「ありがとうございます」

傷ついた手に片手をそえて、それを見つめていた。

「さっきよりも痛くなることはないよね?」

「そこまで心配しなくてもあなたが思っていることにはなりません。楽になってることは確かです」

手から目線をそらして、こちらを向いて微笑む。

「ふう」

全て終わったことで安堵のため息をつき、横の席に座る。

「大変でしたね」

「まあね、お前がいてくれてよかった」

それは事実だ。

昨日から今日までの一連の流れで、雪坂がいなければどうしようもなかった。

アキラに祖先たる雪坂の血が流れていなければ力は発動してなかったし、雪坂の血がなければ心臓が止まってアキラは死んでいた。

「お前の血のおかげかな」

「そのせいでアキラさんが危険な状態になってしまいましたから、ポジティブなことも言ってられません」

「そうじゃないんだ」

「え?」

昨日あったことを雪坂にかいつまんで話すことにした。

雪坂なら誰かに言いふらすなんてことはしないだろうし、あざ笑うこともしないだろうと信じている。

簡単に信じてのかとも思えるけど、同じ血族だからこそ信じられるような気がした。

「そう、ですか」

「あの力がなければ僕や近所の子がどうなってたかはわからない」

「この時代に力を役立てる人がいてくれたことに感謝します」

僕の家族のほかにも血族はいるんだろう。

さすがに五百年もたてば、血が枝分かれしていくのも当然の話だ。

力に目覚めたからといって、どう使うかは本人次第なんだ。

今回はたまたまアキラが目覚めたからよかったと安心する。

僕にもこの血が流れている。

どんな能力があるのかは知らないけど、人間には持ち得ない能力があるんだ。