夜獣-Stairway to the clown-

自分の手をハンカチで抑える。

口元を拭けるように、傍にあったティッシュをアキラに渡す。

それを受け取ると、軽く口元を拭く。

アキラの様子を観察してると、先ほどとはうって変わって楽そうな顔をしている。

(こんな数分で?)

雪坂の血は、物質を消費を回復させるほど重要だったとは思いもよらなかった。

顔色がよくなったとはいえ本人ではないのでどうなのだろうか。

「大丈夫なの?」

「まあね。苦しい感じはなくなった」

ゆっくり目をつむる。

「ちょっと疲れた。お礼は後で言うよ」

数秒で可愛らしい寝息をたてている。

今朝の表情はどこへ行ったのか、安らかな寝顔だった。

僕は朝から走っていたので、この状況に安堵したせいで疲れが今やってきた。

「ふう」

一息ついたところで思い出す。

雪坂はさっき自分の手のひらを切ったのだ。

「雪坂!?」

そちらの向けば、驚いた顔をしてこちらを見ている。

「どうしたのですか?」

今も手のひらを押さえているようで、痛みを感じている様子はない。

「手のひら、手当てするよ」

「大丈夫です。家に着けばすぐに治せます」

不安にさせないとしているのか、本当に大丈夫だという確証があるのか笑顔になる。

「家に帰るまでが痛いよ。菌が入ったら治せたとしても別の病気まで発病しかねない」

怪我のしていない腕のほうをもって立ち上げる。

「強引な殿方ですね」

「そうかも、こういう場合は相手の意見は聞かない」

一階に降りると雪坂をリビングの椅子に座らせ、救急箱を持ってくる。

手のひらを見ると痛々しく見えるし、これは治療しとかなければならない。

「じゃあ、やるよ」

軽く治療をほどこしていく。

ちょっとしみて顔が少し歪むがそれもつかの間のことであった。