夜獣-Stairway to the clown-

「それより、ホラ」

夕子が俺の前に手を差し出してくる。

「何だ?」

「タオル、パクるつもり?」

借りたタオルは未だに俺の手の中にある。

「悪い。っつうか洗って返すよ」

「別にいいよ。今日は使う機会なさそうだから」

洗って返すのがマナーだと思っていたけど、本人がそう言っているのからいいんだろう。

濡れたタオルを夕子に返す。

「何でタオルなんか持ってここに立ってるの?」

普段からタオルを持ち歩いているようにも思えない。

「どこかのバカが、困ってそうだったからトイレ行った後に持ってきただけ」

親切なのかどうなのか、言い方からしてありがたみが半減してくる。

普通の奴はそこまでしてくれなさそうなので、実際ありがたいんだろうと思っておく。

「授業、サボっちゃ駄目だよ」

そういい残して、夕子は教室のほうへと走って帰っていった。

2日ぶりにちゃんと話したような気がする。

昨日みたいなな避けられた喋り方でもなかった。

立ち尽くしているとチャイムが校舎に鳴り響いたので、教室へと向かうことにした。
 

6時間目になると、数学が始まる。

数学をしていると頭の運動にもなるので嫌いではない。

嫌っている奴は多いのだが、理由はわからないでもない。

数学は基本さえ出来れば応用もこなせる。

しかし、レベルアップした問題であれば、基本だけでは解けないことがある。

楽しい時間がすぐ終わるというが、そうである。

集中していれば、時間の経過も気にはならない。

放課後になると、学校で特にやることもない。

昼休みにあいつでも誘って帰るということを思い出した。

(思ってみると、自分から誘って帰ったことはなかったな)

少し迷ったが、夕子も待とうなんて気もないだろうから時間もない。

カバンを持ち上げると3組へと向かう。

3組の前まで来ると夕子の姿を探す。