夜獣-Stairway to the clown-

「抑えずにやるとどれくらいすごいの?」

「約30倍の力です。それに伴って体に返ってくる反動も大きくなります」

「調整もできるってことか」

「リミッターを解除するかしないか、その二つしかありませんから、1か30しかありません」

今の僕が力を使うことはない。

自分の能力がどんなものかもわからないし、あったとしても日常生活には必要ない。

今も普通に暮らせてる以上、あっても役にも立たない。

「年を取ればといってたけど、500年以上も生きているんなら、30倍以上の半端じゃないくらいの増強がされてるんじゃないのか?」

本気を出せばあんなロケット花火くらいの音ではないんだろう。

「ある年齢になるとそこで増強力は一定になります。その限界が30倍ということになります。そこから、増強力を抑えながら力を使うことになるんです」

「そうか。大変なんだな」

「慣れて使いこなせればそうでもありません」

雪坂は樹に片手をつきながら、樹から何かを感じるように目を閉じる。

「数多の時間はかかりますけどね」

さすがに500年以上生きてる雪坂が言えばそれなりの納得はいく。

「聴取したいことは終わりましたか?」

「いや」

話に集中しすぎて、本来の話を忘れるところであった。

「お前、金持ちなんだよね」

「資金には困らないと思います。ですが、それを聞いた真意がよくわかりません」

「別に何がいいたいわけでもないんだけど、ただの語らいだよ」

「特殊な事例以外を聞きたいということには驚きました」

力しか興味を示さない奴らばっかりに関わってきたのか。

「リムジンといい、金持ちでなけりゃ持つことのない代物だけど」

「大富豪の家に養女として置いてもらってます」

「お前の力のこと知ってるのか?」

そうでなければいつまでも年を取らない娘を変だと思ってしまうだろう。

「私の血縁の者だということですから、話さずとも全て理解していたようですが」

この地球上には雪坂の血縁はどれぐらいいるのだろうか。

雪坂の説明なしで、自分の力のことを理解しているやつもいるということか。

謎が深まるばかりだ。