夜獣-Stairway to the clown-

「雪坂渚、誕生日は7月20日。趣味は弓道と料理。スリーサイズは知らん。好きなものはカツカレー、嫌いなものは海老料理だ。どっかの令嬢だかなんだが、やたらと金持ちだ」

当てになるのかならないかわからない情報だった。

令嬢だというのならば、リムジンだということがわかる。

(令嬢?)

「どこの家、それ?」

「そんな正確な情報は知らん、詳しく知りたきゃ本人に聞けよ」

「本人な」

雪坂を見ているとこちらに気づいたようであり、ニコリと会釈するだけであった。

紅い目ではないかと心配していたが、そうなるものでもなく黒い目であった。

(気は進まないが聞いてみるか)

荒川は席に戻り、皆木教師がSHRをはじめる。

これからすぐに眠くなるような授業が始まる。

 

気づけば昼休み、何をやっていたのかと思うほどあっという間だった。

また荒川が僕の席で飯を食べ、変哲もない会話を繰り広げた。

雪坂の姿は教室から消えており、昨日の場所に行っているのかも知れない。

飯を食い終われば他人と遊ぶ気にもなれず、また同じ場所へと向かう。

今は雪坂のことが気になって、3組を覗くことすら忘れていた。

中庭をとおり裏庭に来ると、大きな木が待ち構えている。

初めて会ったような日の光はなく曇っていた。

上を見上げてみるとその姿はそこにあり、今日は誰だか解る。

目を閉じてそこにいる。

風に髪が吹かれていようが関係ないようで、表情一つ変わりようがない。

大きく息を吸うと、目を開けこちらを見る。

「こんにちわ」

飛び降りて木の幹に背中を預ける。

「こんにちわ」

何から聞けばいいものかと思い迷っていると、向こうから質問してくる

「何か聞きたいことでもあるのですか?」

「何で?」

「顔に書いてあります」