夜獣-Stairway to the clown-

考えているうちにどこかにいったのか、それとも誰もそこにはいなかったのか。

謎が浮かび上がるばかりの時だった。

肩に人の手の感触がある。

前には誰もいないとなれば、後ろを向くしかないようである。

後ろには雪坂が立っており、肩に手を置いたまま笑っている。

昼間の作り笑いでもなく、誰もが心から笑っているような顔でもなく、その笑いには何が込められているのかは解らない。

「何が楽しい?」

最初に問いたかったのはそんなことじゃなかったけど、それが出てしまった。

「何が、といいますと?」

とぼけたように笑いながら問い返してくる。

「笑うにも理由があるんじゃないのか」

「理由ですか。あなたがここにいることではいけませんか」

僕がここにいるだけで楽しいというのは、さすがにつまらなさすぎだろう。

誰がそんなことで笑うというのだろうか。

「ウソいえ」

「ウソじゃないですよ。やはりあなたという読みが正しかったんです。だから、嬉しかったんです」

「はあ?」

気でも違ったのかと思いたくなってくる。

「何なんだよ、お前」

昼のこともそうだったし、今もそうだ。

雪坂という存在が疑問でしかない。

「あなたの祖先とでも言いましょうか」

「何わけのわかんねえこといってんだよ」

「動転したくなるのはわかりますよ」

「うるさいよ。そうさせたのはお前だろうが!」

ここから離れたい気分だった。

雪坂の手をつかんで離そうとしたが、その手の温度に驚く。

触れないほどではないがかなり冷たい。

「神崎さんの手は温かいですね」

「お前の手が冷たいだけだろ」

乱暴に引き離す必要もないと思ったので、ゆっくりと下げることにした。

雪坂の手から、握っていた自分の手を離す。

雪坂は何事もないようにベンチまで歩いていき座る。

「立ち話もなんですし、座りません?」

「断る」

「そうですか。残念です」

座ったらもう立てなくなるんじゃないかと思う恐怖があった。