夜獣-Stairway to the clown-

「神崎君、今帰りなんだ」

あだ名から苗字へと格が下がっている。

「まあね」

そのことで悲しさと苛立ちを覚える。

「知り合い?」

乾は夕子のほうをみながら、問う。

「うん。家が近いんだ」

「そうなんだ、幼馴染ってやつだね」

コイツは何も知らないようであり、それも当然なんだろう。

ここからさっさと立ち去りたい気分に襲われてくる。

これ以上ここにいても、夕子にとっても僕にとってもいい気持ちではない。

「気をつけて帰りなよ。お二人さん」

出来るだけ何もない素振りで二人の横を通り過ぎていく。

校門まで来ると、今朝見た黒塗りリムジンがそこにある。

誰のかと思いながら、それを気にかけてるほど心の余裕はない。

(くそ)

そのまま家へと帰っていくことにする。

帰り道に何も考えられず、公園へとたどり着く。

公園を眺めて見ても、気持ちは晴れることはない。

いつものことなら二人であったのだが、今日は一人だった。

空を仰ぎ見る。

『空を見てました』とあの言葉が僕の中で蘇る。

(雪坂か)

不思議な感じを思わせる女の子、夕子とはまた違った感じだ。

しかし、高校に入って会ったので、本当のところどんな子かは全く知らない。

まだ夕子のほうが知っている。

(夕子のことは考えるのはよそう)

僕は空から目を離し、家へと帰ることにした。

家の中へと入ると、TVの音がこちらの耳に入ってくる。

この時間にいるとなれば、アキラしかいないだろう。

リビングを見れば椅子にはアキラの姿があり、朝と同じ格好でTVに集中している。