夜獣-Stairway to the clown-

「空を見てました」

雪坂はいきなり口を開く。

「空ねえ」

空を見上げてみたが、樹が邪魔で面白いとはとても思えそうにない。

(友達いないんだろうか?)

「ふふ、どうかしら」

その声は僕が何を思っているのか知っているようだった。

「神崎さんは何を?」

「別に、歩いてたらここに来てた」

特に何か考えがあってここに来てたわけじゃないし、誰かいるとも思ってはいなかった。

「そう」

雪坂はそれだけを言うと、上を見上げた。

「樹の上は気持ちいいですよ。風も地上よりも優しくて、緑がほどよい具合に調整してくれます」

慈しみの表情で樹を見ている。

その表情はさきほどの作り笑顔とは違い、引き込まれそうになるほどの魅力がある。

とても同い年とは思えないほどの顔だった。

「私がこの樹よりも長く生きてるとしたらどうです?」

「は?」

一瞬、耳を疑うような言葉が聞こえてきたような気がした。

もう一度雪坂を見てみれば、顔にかげりがあるように見える。

「冗談ですよ」

ふふと笑いながら、こちらを向きまた作り笑顔に切り替わる。

「あなたも一度樹に登ってみてはどうです?」

「遠慮しておくよ」

そこらへんにいるガキじゃあるまいし、よほどのことがない限り上ることもない。

「そうですか」

少し残念そうな顔になるが、それもつかの間のことであった。

その後に、すぐにチャイムの音が鳴り響く。

二人ですぐさま教室に戻ると、まだ教師は教室の中にはいない。

「助かりましたね」

雪坂が俺にいい自分の席へと戻って言った。

他の誰とも違う雪坂に、俺は少し興味を引かれる。

しかし、それ以上の感情はない。