夜獣-Stairway to the clown-

(誰かいる?)

周りを見渡しても誰もいないので、上を見上げるとそこには女生徒が枝に座っている。

光でどこの誰かは判別がつかないが、女だということだけは認識できる。

「どなたかしら?」

上の人物も下を向いているようだが、逆行で顔が見えない。

「1年5組の神崎だけど」

「神崎さん?」

言葉を放つだけで、降りてこようとはしない。

「ああ、で、誰なの?」

「申し訳ございません。私、自分の名前も名乗らずに」

「別にいいんだけど」

そんなに執拗に聞こうという気持ちもなかったので、答えなければそれでよかった。

女生徒は5Mもあろうという樹の枝から身軽に飛び降りてくる。

トンっと片ひざをつき座った体勢になったが、すぐさま立ち上がる。

自分の前に立っている人物には見覚えがある。

昨日の今日で忘れるはずがないし、同じクラスなら尚更だった。

髪の長い同級生、真っ直ぐこちらを見てるのは奴との会話に出てきた雪坂渚であった。

「雪坂渚と申します。以後よしなに」

(知ってる)

相手はすでに自分などのことは記憶にないようであった。

「でも、5組といいますと、同じクラスでしたよね?」

「ああ」

「これは失礼致しました。私、他人の名前や顔を覚えるのが不得意なものでして」

にこりと笑顔を作るが、それが本物ではないことは誰が見たってわかるところだった。

「ここで何を?」

こんな人気のない誰もこないところ、女生徒一人が何をやっているのか気になった。

一般人なら、昼休みは誰かと喋ってるぐらいが妥当なところだろう。