夜獣-Stairway to the clown-

「好きな人までわかるの?」

「さあ、そこまでは知らん。けど、3組で有名な男子といっちゃアイツだろうな」

「アイツ?」

「乾龍一、運動神経抜群、容姿端麗、秀才とくればこの名前が出てくるんだよ」

そんな人間がまずこの世の中にいてたまるかと思ってはいるけど、実際いるようだ。

「女子からは人気があるようだし、好きになる気持ちはわからんでもないがな」

「そうか」

「待てよ。お前、同じ中学じゃなかったか?」

「気のせいだろ」

いつの間にかなくなっていた弁当箱をなおし、席を立つ。

(どうであれ、時間はない、か)

昼休み、3組の前まできたものの夕子を呼ぶには気が引けた。

(覗くだけにしておくか)

3組を通り過ぎるふりをしながら、横を向きながら歩いていく。

夕子の姿は教室の中にはなく、どこかに行っているようだった。

5組には戻る気はしなかったので、歩いていくことにした。

一組までくると中庭にいく道と靴箱に行く道がある。

普段は中庭から校舎に入り真っ直ぐに歩き靴箱に行き、また戻って五組まで行くという非常に面倒な仕組みになっている。

靴に履き替える気もせず、中庭のほうへと歩いていく。

中庭に出ると掲示板があり、読む気すら起こらない情報が紙に書かれてあり貼り付けられている。

中庭を歩いていくと校門に出るのだが、その前に校舎を隔てて右に裏庭へと繋がる扉がある。

裏庭には樹があると学校パンフに載っていた。

実物がどんなものか見てみたい気もあったので裏庭へといくことにした。

裏庭への扉を回すと、開いているようだったので開けてみる。

そこは天から注ぐ光が樹の葉の間からこぼれ出ているようだった。

樹は周りから隔離されているようで、校舎に囲まれている。

上だけはどこまでも伸びるように天井はない。

「大きいな」

ぱっと見た瞬間に誰しもがそういうかもしれない。

樹の近くまで歩いていき、根元の部分までくると人の気配がした。