パンをくわえているせいか、上手く呼吸ができない。

滅多にしないことはしないほうがマシだと思いながら、パンを口からちぎって持ちながら走った。

走っていくこと5分、前には一人の女生徒が走っている。

それが誰かは知っているし、こんな時間に来るのは一人しかいない。

顔をあわせるのは少し気が引けるが、遅刻するのも癪だったので僕は追いつくことにする。

「よ」

僕は女生徒の横までくると顔を見た。

そこにはいつもと同じ顔、しかし必死な顔がある。

「余裕そうだ」

こっちをみずに真っ直ぐ学校のほうだけを見ていた。

「どこが?」

そんなに余裕そうな顔を見せた覚えはないのだが、そう見えるのだろうか。

「喋ってると舌噛むし、しんどくなるから話するのついてからでもいい?」

「ああ」

僕もそのつもりだった。

走ってる間、手にあるパンがグチャグチャになっていることに余裕のない僕は気にならなかった。

学校の校門につくと黒塗りのリムジンが止まっていた。

珍しいというよりも、まずないだろうと思えるような登校方法を誰がやったのか気になったけど、時間がないので無視する。

靴箱までくると、上履きにさっさと履き替え一階廊下を歩こうとした時だ。

「先行くよ」

「ここまで来たんだから、最後まで一緒にいけばいいじゃないか」

「それもそうだけど、でもね」

戸惑っているような顔を見せている。

「それに、コウっていつも一人のほうがよさそうな顔してるじゃん。いっつもそうだった」

「何だよそれ」

ちょっとやそっとじゃ付き合ってるなんて勘違いはまずないとは思うけど。

「ゴメン。じゃ!」

僕を残して、先に教室のほうへと向かっていった。