コイビトは

タクシー、というのも考えたけれど、そんなお金持ってないし。


そのときふと、オヤジが生きていたら、





俺が社長ムスコのままだったら…どうなっていたかな、なんて思った。





ここで、行けるとこまで電車で、なんて言わないで、迷いも無く今タクシーに乗っていたかな。


いや、もし俺が社長令息のままだったら、多分大学も、学部も、違うところに行っていて――原田さんに、出会う事もなかったんだろうな。




急に、原田さんと出会えた事、彼女が俺を好きになってくれたこと、そして告白してくれたことが、数々の偶然の上に成り立っている、運命的なものに思えてきた。








ふらふら歩いていると、通りからストリートミュージシャンの歌う声が聞こえてきて、俺はハッとした。