「なぁ…梓…本当に俺の事キライになったのか?」

顔を見ないまま質問してきた。

アタシは隆也の背中に、ギュッと抱き付きながら答えた。

「好きだよ、大好きだよ…でもダメなの…」

あんなに、アタシが嫌いな話を聞いたのに…
あんなに、隆也の情けない姿を見たのに…

それでも完全に嫌いになれない。

それがアタシの素直な気持ち。

突き放しても、好きな気持ちが『0』にならない。

隆也もバカだけど、アタシも相当なバカだね…

「どうして最初から言ってくれないんだよッ!」

「ダメなの…」

「どうしてッ!」

「隆也だって分かってるじゃん!」

あの時の電話で、元カノが声を出したのは、電話の向こうのアタシに、自分の存在を知らせるため。

『隆也は渡さない』

そんな強さを感じた。

アタシは出来ない。
彼女から隆也を奪うなんて…

「俺がもっとハッキリしてたら、付き合ってた?
元カノとの関係も無かったら、付き合ってた?」

黙って頷いた。

隆也がアタシの方に向き直り、強く抱き締め言った。

「俺がバカな事しなかったら…」

二人とも抱き合いながら泣いた。

「梓…ごめん。それでも俺は、梓が好きなんだ」

そっと唇を重ねた。

優しく悲しい涙のキス。

最初で最後のキスだった。