「アンタはズルいわ。"押してダメなら引いてみる"的な部分も」

隆也の隣に座り、タバコに火を点け、深く煙を吸い込んだ。

「そうか?」

隆也もタバコを吸い出した。

綺麗な夜空に煙がかかり、波の音だけが聞こえる。

しばらくしてから

「ねぇ…どっち?」

と、隆也がまた聞いてきた。

アタシは少し間を取って答えた。

「好きだよ。幼なじみとして」

隆也の顔を見ることが出来なかった。

"幼なじみとして"

そう言うしかなかった。

「そっか。俺、嫌われてなかったんだね」

安心したような、少し寂しいような、そんな声のトーンに聞こえた。

「じゃ…帰ろうか」

アタシが先に立ち上がり、車に向かって歩いた。
後から隆也も歩いてきた。

これでいいんだ…
彼女がいる人に、気持ちを伝えちゃダメなんだから。

もう、涙をこらえる事も、歩く事も出来なかった。

アタシから終わらせたのに、終わりの言葉を言ったのに…

ダメ…
後ろには隆也がいる。
ここで泣いたら…
泣いちゃったら…

足音がだんだん早く聞こえた途端

「梓…!」

隆也がギュッと抱きしめた。