隆也の鼓動が背中を通じてアタシに伝わる。
本当は嬉しいのに切ない時間…

「隆也…離して…」

「やだ」

「お願いだから離して…」

もう限界だった。
アタシは隆也を諦めきれてなかったんだ。
涙が溢れそうになるのをこらえた。

「やだ。このままがいい」

「隆也…抱き締める相手が違うよ、アタシじゃないでしょ」

「梓でいいの」

やめてよ…
人の気持ちを弄ぶのは…

「もう!寒いから戻るッ!離せよ!バカ隆也ッ!」

腕が離れ、アタシは車の方に歩き出した。

「何だよ!やっぱり可愛くねぇなぁ!」

可愛くなくて結構。
隆也には関係ない。

振り返ると、隆也はまだ階段に座ったままだった。

寒いって言ってるのに、何でよッ?!
風邪引いたら隆也のせいだ!

「隆也ッ!」

聞こえてるはずなのに返事もない。
イライラしながら迎えに行った。

「隆也、寒いから帰るよ」

「梓…そんなに俺の事キライ?」

何言い出すの?
好きも嫌いも関係ないじゃん。
彼女がいる人の台詞じゃないでしょ?

「梓…どっち?」

はぁ?
何?その女みたいな台詞は?

だいたい、アタシは何て答えたらいい?

正直に言っても、嘘を言っても、アタシが悲しい気持ちになる事に変わりないんだよ…