電話の奥で女の声が聞こえた。

「お前最低だなッ!アタシへの腹いせに女の声を聞かせるのか!」

「違う!違うんだよ梓!」

「ねぇ~隆也…梓って誰ぇ?」

完全にキレた。

「バカにしやがって…お前みたいな腐った男はいらねぇよ!!」

何か言いかけてたけど、無視して電話を切った。


「あのヤローッ!」

やっぱり彼女がいたんじゃん!

あの時…隆也がアタシに吸えないか?と差し出したタバコは、彼女の物だったんだ!

夜に来た時、隆也のタバコの吸い殻を見たら、アタシの物と同じだった。
それを見て予感した。

女の子らしい色合いと、フワフワした感じの物が好きな人なんでしょ。

アタシは、その人とは真逆。

それに、あんなに甘ったるい声なんて出さない!

彼女がいるなら、アタシに優しくしないでよ!

少しでも好きになった自分が…
だいぶ好きになってしまった自分が悔しかった。


テーブルの上の空き缶を見て、かなり呑んだと分かるのに、怒りのせいか全然酔えない。


考えてみたら…

隆也とアタシは、付き合ってるワケじゃないんだから、電話の奥で女の声がしても変じゃないんだよね…

隆也に対する気持ちを諦めかけてた所に、あの電話で決定付けられただけの事。


『ははは…何やってんのよ…』

笑いながら涙が溢れた。