優心論













少しまた間が空いて、


気まずそうに楠原くんが口を開く。





「……〇□〇〇、じゃない?それ…」





私が口にした名前とは、


少しだけ異なっていた。



何だか恥ずかしくなって、


私は平静を繕うように言葉を足していく。





「わかんない。友達に聞いたから」





そっか、と呟く声すら、


何だか気まずそうな楠原くん。



私は話題を逸らそうと思って、


言葉を探す。





「…その…、あれだね、

リア充、ってヤツなんだ」





するとまた気まずそうに彼が口を開く。





「…それ、中学ん時も散々言われて、

軽いトラウマなんだよね」





呆れたような、疲れたような口調で


重たく話す。





「そっか…。ごめんね?

そんなこと言っちゃって…」





さっき口にした言葉を後悔しながら、


ちゃんと口にして謝った。





「いや、別に…。

てか、それ誰に聞いた?」





「え?友達からだけど、

その子の友達なんだってさ」





楠原くんは何だか腑に落ちない様子で


そうなんだと呟いて、椅子に座り直した。



私はそんな空気を誤魔化そうと、


ひたすら彼に


過去の彼氏のことを聞いてもらった。



休憩時間中だけだったから


大したことは話せなかったけれど、


楠原くんに彼女がいることだけは


唯一わかった。


















私は…、


好きだと核心する前だったから、


諦められると思ったんだ。



そもそも今好きなのかもわからないし。



彼女いるんなら邪魔しちゃダメだな。



諦めよう。













そう、思ったんだ。