(何で突然好きになったんだろ)
難しい顔をしていると、吉本は朋美の方をじーっと見た。

「な、何?」
じーっと見られたのが恥ずかしくて声が裏返る。

「今日お前変だな。ボーッとしてるし、鳴き声出すし、声裏返ってるし。何かあった?」

「何もないっすよ。」

「いや、絶対何かあるな。原因は何だ?」
吉本も朋美のように難しい顔をした。

(原因はアンタだよ)
そう心の中で言いながら難しい顔の吉本を見た。
音楽室に着くと吉本は、男子が溜まってる窓際に向かい、友達と鐘がなるまで話していた。その姿をじっと見ていると、見過ぎだよと由紀に笑われた。
音楽の授業が始まっても再生タイムは何度も来て、授業は何も頭に入らないし、顔を凝視されたときのことも思い出して訳がわからなかった。

(いつまでもこんな感じじゃ保たないな。というか、今の私には恋愛はタブーなのかも)
朋美は中学三年生であると同時に受験生でもある。そしてそんな自分は、恋をしてはいけないのではとふと思う。このままでは勉強が手に付かなくなるのではと。
その日は結局何も頭に入らずに、吉本の姿ばかり追って、学校は終了した。

「大丈夫?ずいぶん老けた感じするけど」
下校途中、由紀が心配そうに朋美に聞く。

「マジ?」

「うん魂取られたような顔してるよ。何かあった?」

「•••一日中再生硬直赤面タイムだった。」

「何それ?もしかして吉本?」
そう聞かれると小さく頷いた。すると由紀は重症だねと言いながらニヤニヤしている。

「ニヤニヤしないでよ。」

「しょうがないじゃん。そういえば二時間目吉本と一緒に音楽室まで来たよね。」

「うん。それが何?」

「いいや。何でもない。」
と言いながらも由紀はニヤニヤしていた。